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災禍の天秤1-05

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【師匠】
第一章 §1-05
 チリチリと焚き木の燃える音がする。微睡みの中でその音を聞きながら心地よい暖かさを感じていると、不意にパキッと枝を折る音がして焚き木に何か投げ込まれたのが分かった。 「——————ん」  軽く体を起こし目を擦ると、洞窟の入口にある焚き木の前、寝る前に自分が座っていた丸岩に一人の女性が腰掛けているのが見えた。  年の頃は三十代中半と言ったところだろうか、麻の丈夫そうな萌葱色のロングスカートに美しい刺繍が入った赤白のポンチョを着ている。髪は燃えるように赤く、後ろで編み込んでいる。丸顔で雪のように白い頬にはそばかすが見えた。  一見西洋ではそれほど珍しくもない容姿であり、美人ではあるが印象のあまり強くない女性だ。しかしその瞳と目が合った瞬間、俺は眠気が消えてガバリと上半身を起こしてしまった。 「すまない、少し夜も更けてしまったか。しかしこの場所は心地が良いな、精霊も多くて風も優しい」  髪をかき上げながら彼女はそんなことを言う。確かに風はあるが焚き木と相まって心地良いくらいの気温に感じられる。夜の水辺だというのに、この場所はそれほど寒くならなかったようだ。 「あの、あなたが自分の師匠ですか?」  内心かなり驚きつつも聞いてみる。するとその女性は何でもないように答えた。 「そうだ。記憶にない今は戸惑うだろうが、私が貴様をこの場所へと導いた責任者だ。現在貴様の地球上でのカルマを私が肩代わりすることで一時的にこの世界での活動を可能にしている。この星の調査はごく短期間で貴様を成長させるために私が指示したものだ」  そう言うと、彼女は薄く微笑んだ。  少し鼓動が早くなる。彼女は素朴な美人ではあるが、決して圧倒されるほどではなかった。恐らく地球においてもそこまで特別視されそうな容姿ではない。その筈なのに何故か彼女を見たその時から、強烈な違和感に襲われている。  それはきっとあの瞳のせいだ。薄く金色に光る緑の瞳。他の誰とも違う存在であることを主張するようなあの瞳が、見るもののこうべを自然と低くさせるような威光を放っているように感じる。  彼女は木枝を火へと放りながら、洞窟の内部に目を向けていた。 「懐かしいな。レンバスとは良い麦を見つけたじゃないか。その植物は特別な物だ。保存食としてこれ以上の物は少ない。食べる量を考えて大事に保管しなさい」  彼女はそう言うとこちらに向き直り、自己紹介を始めた。 「私の名前は多いが、本名は【ラウデリカ】という。地球における梅の花によく似た植物が名の由来だ。そのため、私の率いる団体は梅花戦団ばいかせんだんとか梅花の旗幟団ばいかのきしだんと呼ばれることが多い。つまり貴様の所属もこの【梅花の旗幟団】に含まれている」 「梅花の旗幟団……?」 「そうだ。例えこの星にその名を知る者がいないとしても、貴様は知っておくべきだろう。自分が何者となり、どのような理念のある団体に自ら所属したのかと言うことを」  そう言うと、彼女は自分の着ていたポンチョを外し、その背中側にあるマークをこちらに見せてきた。 「これが我らの、そして貴様の背負う旗章だ。命を尊び自らを律することを誓う旗、梅花の旗章だ」  そのマークは墨で太く書かれたギリシャ文字のΦ ファイに5枚の花びらが混じったような幾何学的なマークだった。マークの周りには小さな文章が書いてあったが見たこともない文字だった。 「この小さな文字は我らの誓いであり、まじないだ。我が弟子である者にしか教えられることのない古い滅びた星の言葉でもある。いや、ルールに則って読むため記号に近いか?  この言葉を口にする場面は非常に限られる。それは我らの誓いと反する場が物質界に形成された時のみ。一度口にされたなら私の名と加護の元に膨大な力が行使可能となる。その代わり我が弟子は常にこの誓いに縛られ、幾つかの制限を受けることとなる」  その文字はどこか幾何学的な形で筆記体には向かないような、一つ一つに幾つもの意味が込められたような不思議な印象を受ける文字だった。旗章に画かれている文章は三つある。その三つの文章がどうやらこの梅花の旗幟団の基本方針になっているらしい。 「なるほど、姉弟子の中二病は師匠から……」 「ん、何か行ったか?」 「い、いえ……」  どうやら耳もいいようだ。  師匠は微笑みながら話を進める。 「第一文にはこう書かれている。 【万物は私によって示された最古の経典であり、この体は私によって与えられた最古の寺院である】」  師匠は続ける。 「万物とはこの世界で形をなす全てのエネルギーのことであり、ここでの私というのは < 原初の衝動 > 、つまり地球でいうところの < 一なる神 > という概念に近い。  本来全ての形あるものに宿る意識はこの < 原初の衝動 > の分霊であり、 < 原初の衝動 > が示した < 私とは何か? > という問いの答えを探す者として現れたものだ。無論これは一面的な見方に過ぎない為、動機はもっと多面的で根源的な衝動だがな」 「……神様の根源的な衝動、ですか。産めよ増やせよみたいな?」 「そうだ。そしてその神の言葉である衝動は今も宇宙中で鳴り響いている。そしてそれに呼応するように作り出された物質世界という表現物は、様々な種類や違いを持った < 原初の衝動 > の可能性そのものだ。  まぁ分からぬなら物質というエネルギーは神が用意した自分とは何かという姿を示すシンボルのようなもので、それは世界という自然のエネルギー場が神の存在を示す鏡や経典であると思えばいい」  日本人だからかもしれないが、自然信仰と科学が相性いいのは分かる。そもそも学問の発展は自然から学ぶことが大前提だ。まるでクイズの問いに導かれるように技術は発展していく。だからと言って見たこともない神を信じるのは今の俺には無理だが。 「次に体が最古の寺院であるというのはとても大切な意味がある。全ての生命はその体内が < 祈りの場 > として機能している。それは神の分霊である意識を招くため、小さな微生物たちが自己犠牲によって祭壇を築いてきたからに他ならない。  貴様はチャクラという言葉を知っているか?」 「ちゃ、チャクラはそのインドとか、チベットとかネパールとかの宗教的な教えの中にあるっていう、その———」 「チャクラとはホルモンを生成する内分秘腺がある箇所だ。チャクラ自体は体内に多くあるが、主要とされる九つのチャクラは生物に干渉する次元の反映物だ。全ての生物はその影響で制限された物質生命独自の意識を作り出している」  自分で答えるのか。   「貴様らがチャクラと呼んでいるそれは高次元の意識と物質世界が繋がる祭壇のようなものだ。そしてそれらは必ず自己犠牲によって築かれる。微生物は最初に増殖し、他者を食らい、光を五感を求め争いあうよう設計されている。次に平安の感情を、最後に平安を獲得するための知恵を求める。チャクラを下から見ていけばその歴史に誰でも気づくはずだ。彼ら小さな生命が生物という祭壇を築いてるという事実に」  チャクラの名前や種類はあまり分からないが、確かに下から見ていけば股間とかへそ下の腸と心臓にもあった気がする。漫画かアニメで見たんだっけ? 「彼ら小さな生命のカルマは私達の体から出る衝動、すなわち三大欲求などの欲望として現れる。  適度に肉体の要望に応えるのは生存の為にも大切なことだが、我々 < 原初の衝動 > の分霊がそれに屈することは許されない。何故なら我々は物質界のエネルギーをより高次の次元まで戻すために祭壇の呼び声に応じたからだ。この最初の一文にはそういう意味が込められている」 「……えと、全ての命がそうであるべきと仰ってるんですか?」 「いや、そうではない。これは梅花の旗幟団における規則のようなものだ。私の加護を受ける者は私に最も影響を与えている < 原初の衝動 > に従うことで力を得ている。< 原初の衝動 > の違う側面の為に仕事を行う者は沢山いるし、私は彼らを否定しない。肉体からの衝動に負けて世界を蔑ろにする連中は滅ぼすこともあるがな」  強すぎて怖いよ、この人。しかしこのラウデリカ師匠の話は不思議と謎の説得力があった。それはまるで人の知らない見地から世界を見下ろしているかのような。 「えーっと、つまり要約すると、物質世界の小さな生命の目的は高次元にある意識を自分の中に招くことであり、それは神様が自分がどんな存在かを知りたかったからできたシステムってことなのかな? そしてそんな物質の願いに高次元にいた意識が応じた以上、欲望に流され過ぎてはならないと——————」 「ほう、突然の話なのに意外と理解しているのだな。  付け加えるならそういう側面があるという話であり、この話が全てではないということも覚えておきなさい。物事が一面的であることはない」  そういうと師匠は次の話に移った。 「第二文にはこう書かれている。 【今、九つの祭壇に自らを捧げ、その聖火の灰の中より命の旗を掲げん】  この<今>という言葉は観測者を必要とする言葉だ。時間の概念のようでいて、それだけでは成り立たない。過去と未来は記憶とイメージだけで十分構成され得る概念だ。だが、今という概念は意識という要素を無視して成り立つような概念ではない。つまり人類の時間の概念には欠陥があるということだ。これは今という言葉を発する際、理解していなければならないことだ。  九つの祭壇というのは先程話したチャクラのことだな。七つという話が有名だがここで語られているのは九つ、つまり体内に隠されて存在する三つの十字架の話だ。  人の体には三つの隠された十字架がある。正確に言うとTタウ という形であり、それらが頭部、胸部、下腹部とそれぞれの領域に存在している。  この九つの祭壇に自分を捧げるというのは、更なる高位の次元と物質世界を繋げるため、今の自分を代償にせよという意味だ。微生物がそのか弱い意思で行ってきたことを自らも行えという意味になる。  聖火とは意思のこと。灰とは他者の養分となる犠牲の隠喩だ。命の旗はその犠牲の中でしか得られないという一つの法則を現している」  スラスラと答えていくラウデリカ師匠。とはいえ内容はかなり不穏な話である。  自ら進んで犠牲になれとか普通に考えれば理解しがたい内容だ。  だが彼女の中にはまるで見てきたことを語るような確信があるようだった。とはいえ―― 「それは神の為に、ってことですか?」  少し宗教に似た盲目的な見方があるような気がしてつい尋ねてしまった。俺は誰も利用したくないし、されたくもない。でも彼女は見透かしていたかのように笑って答えた。 「この世界にいる全ての生命は様々な精神や肉体という服をまとった自分だ。そして死や消失というものは実際にはまやかしに過ぎない。私はそんなまやかしの世界で美しく輝きたい、咲き誇りたいと願う衝動の中にいる。それだけだ」 「…………」  何故だろう。これまで生きてきて、こんなに純粋な強い思いをぶつけられたのは初めてかもしれない。  美しく輝きたい、咲き誇りたい。そんなことを本気で口にできることに正直憧れを感じてしまった。 「最後の文にはこう書かれている。 【先を歩まんとする者に祝福を、宿命を破らんとする者に力を。命を穢し自らの意思を放棄する者に断罪を与えん。進むべき道の先にいにしえの梅花を飾らん】  これはほとんど言葉のままだ。新しい自分を獲得しようと進む者を肯定し、自分の中に宿るカルマや課題に挑戦する者を肯定するという宣言だ。それは同時に命の中で苦しみもがき苦闘するこの宇宙で行われている生命一連のプロセスを受け入れるという宣言でもある。  だからこそこれらの文言は、命を軽んじる者や意思を放棄しけが れを受け入れた相手と対峙した時だけ口にすることが許される。まぁ自らの魂の消滅を賭けてでも勝たねばならない相手と出会ったなら使えという話だ。そんな状況はそうそうない」  ないなら教えなくてもいいような気がする。そうそうないと言われても時たまあるとしか聞こえない。 「最後のいにしえの梅花に誓うというのは、私に請願を立てるという意味だ。これにより私が承認すれば私の意思と弟子の意思が同期して相手の魂を砕くだけの力が流れる。その力を < 断罪の剣アストライア > という」 「断罪の剣アストライア…」 「お前の魂が使える回数は10回くらいだ。それ以上使うと魂が壊れ上の次元に意識が戻ることになる。ありていに言うと転生できず死ぬということだ。まぁ消滅するわけではないし、それを求めている人間も多いがな」 「えっ、俺は嫌なんですけど……出来れば面白おかしく暮らして人生を終えたいんですが……」 「使わなければよい。とはいっても一、二回は使うことになるだろうな。災禍の天秤を前にすれば……」 「………………」  何の天秤かは分からないがようするに使う可能性はあるようだ。  師匠は焚火を見つめながらこちらを見ずに続けた。 「とはいえ貴様の本質は名前の通り【石の場を徹す】という戦士の名前だ。隠れた意味もあるが——そうだな、これからはこの世界でイシュバタールと名乗れ」 「——イシュバタール?」 「そうだ。その昔、神に見初められたとあるハングドマンの名前だ。お前にいい影響を及ぼすだろう」  師匠は少し間をおいて考えるように言った。 「今は分からないだろうが憶えておきなさい。私を現わすのは数字の五だ。神の放った五つ目の言葉であり、次元を制定した結界の力であり、お前たちの喉に関係する力を有している」  そこまで喋ると師匠はこちらを見て微笑んだ。 「以上、これが貴様の入った団体の根幹となる方針だ。命を尊び、自己の制御と浄化を行いながら高位の次元へと世界を導く。そして必要とあらばその身を犠牲にしてでも世界の穢れを排除しなければならない。梅花の旗章を背負うとはそういう意味がある」 「梅花の旗章……」 ————正直、怖い。そう感じてしまった。  いきなり現れてあまりに強過ぎる意思を見せつけられて、これまで適当に生きてきた自分とは余りにかけ離れた精神の有り様に寒気すら感じる。  だと言うのに、その曇りのないラウデリカ師匠の瞳から俺は目を離せないでいた。それはきっと、この出会いが本当に特別なものだと思えてしまったから。 「さて、話を変えよう。私が今回やってきたのはこれからのことを伝えるためだ。貴様はこの星にやってきた目的を既に二つ知ってる筈だ。一つは紫の雪の調査のためであり、もう一つは自らのトレーニングのためだ。悪いがこれにもう一つ追加しようと思っている」 「追加ですか? あの、自分どうやれば強くなるかも分からないのですが……もしかしてゲームみたいにレベルを上げたり、能力補正を手に入れたりできるのですか?」 「そんなものはない。力だけ渡しても強くはなれない。全てはバランスで成り立っている。人の身である以上限界はあるが、地道にトレーニングしていけばナノマシンの助けもあるのだから成長は早い」 「ですよね~……」  何となくは分かっていた。そこまで甘くはないことを。 「目的の追加というのはスカウトだ。この星にいる見込みのありそうな人間を仲間に引き入れたいと考えている。実のところ現在の我が団は人材不足だ。わたしの弟子である二百六名の団員のほとんどが地球どころか太陽系にいない。地球にいるのは貴様の姉弟子と兄弟子、あと行方不明の三名のみ。手が足りないのだ」  しかもいきなり世知辛い話が飛んできた。 「仲間ですか。でもこの辺には町とか見当たらないんですが?」 「それはそうだろう。ここから最も近い町まで貴様の足だと一月半かかる計算になる。貴様はこれから死なないようサバイバルしながら町に向かうことになるだろうからな」 「一月半……!」 「安心しろ。足は既に用意してある。それに貴様はチャクラの使い方を覚えたいのだろ? 町に付く前に手に入れねば生き残れんかもしれんぞ」 「うぐっ……!」  確かにあれは覚えておきたい。シーカーズアプリは反則級のアドバンテージになり得るが、それ以外の俺は基本普通の人間と変わらないのだ。魔法くらい使えなくちゃ恐竜モドキに食われる未来しか想像できない。 「明日の昼過ぎに少し手ほどきをしてやろう。【火】の生成はもう知ってるな? ならば明日は【雷】と【癒やし】そして【遠見】を教えてやろう」 「うおっ、格好いい! ってか適正みたいなものはないんですか?」 「本来はそんなものはない。勝手に得意だと思い込んだり、苦手意識を持ったりする者がいるだけだ。だが貴様の場合【石】【空間】【雷】【風】は間違いなく得意になるだろうな」 「え、何故ですか?」 「名前だよ。石場 徹という名に宿る言霊の力だ。石、場、それに雷神トール。実のところ貴様は地球にいる時、既に【雷】と【癒やし】を少し学んでいた。大きい力ではなかったが、それなりに使えていたぞ?」 「おお、全く覚えていない! しかし地球でも使えるんですか、魔法って……」 「ここより制約が多いがな。地球は魂の促成栽培がされている都合上、星の生命エネルギーが枯渇する周期を利用して文明を発達させた。そのため地球表面だと山々とそこから溢れ出すエネルギーの導線上で力を多少を感じられるだけだ。あれではかなりチャクラが発達してないと町中で力は使えないだろうな」  地球も色々あるらしい。しかし今重要なのは地球の話ではなくこの星の話だ。魔法は明日習うから良いとして——— 「紫の雪はどうするんですか? 一度姉弟子に調べてもらいましたけど」 「アレの情報も町で調べて欲しいところだな。いつから始まったか、どこから始まったか、どんな噂があるのか。後で管理者サイドの情報と擦り合わせる予定だ。こういう時、意外とどうでもいい情報の中にヒントが隠されていたりするものだ」 「なるほど……」  管理者の知らない情報なんて本当にあるんだろうか。もしかして師匠は管理者からの情報を疑ってるんじゃないのか? そんな風にも考えられる。  そんなことを考えていると、突然師匠はゆっくりと立ち上がった。 「そろそろ時間だな。最後にいくつかヒントをやろう。まずは貴様が昼間にであった竜だが、体の全体をよく見ることをお勧めする。あとレンバスや豆類には十分なタンパク質が入っているから肉は食うな。肉を食えば貴様が言うところの魔術が使い辛くなると思え」 「さ、魚もですか?」 「病の時くらいにしておけ。レンバスもあるし野菜で体調は十分整えられる。食べる量も腹八分くらいで止めておけ。最初は食事の回数を増やして対処しろ。使い捨ての体とはいえ、今のうちに体を星の力で維持できる状態へ変えねばならん。瞑想法は明日教える。貴様はしばらくはこの湖付近で素振りやスクワットでもしておけ」  そういうと師匠は立ち上がりこちらに背を向けた。 「後は明日だ。今日は遅れて悪かったな。貴様ももう寝ろ」  俺も少し戸惑いながら立ち上がると、彼女は振り返り最後にこう聞いてきた。 「何だ、最後に聞いておきたいことでもあるか?」 「あー、その、俺の働いてた仕事場と世話になった施設のことなんですが……」  そう言うと師匠は笑って応えた。 「その件なら既に解決済みだ。皆元気に過ごしていることは私が保証しよう」  その言葉を最後にサヨナラも告げず、師匠は夜の闇に溶けるように消えた。






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