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災禍の天秤1-01

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Prologue
第一章 §1-01

  ザザッ………ザッ…… ……ザッ…ピーッ……ザザッ… 『 起き…、ト…ル君! 聞…え……! 』 ザザッ…………  耳の奥、鼓膜というよりも頭の中で音が鳴り響く。それはまるでラジオのチャンネルが合っていないかのような酷く掠れた音。  やがてその音は重低音で響きながら大きな唸り声へと変わっていき —— 目を開けた瞬間、ブツリと途切れた。 「 —— うおっ! 何だ今のっ!」  サパァァッという水の音が周囲に響き、慌てて体を起こす。  激しい胸の鼓動を右手で抑えながら周囲を見渡すと、目の前には美しい滝のパノラマが広がっていた。
「……あ、あれ?」  それは見覚えのない幻想的な滝だった。高さは六、七メートル程だろうか、水の勢いはあまりない。水苔がびっしりと生え、滝幅が横に長く広がっている。  何か見覚えのあるものがないかと近くの岩場に目を移すと、見たことのない大きな白い花が木漏れ日の中で揺れている。何の花だよ。 「……えっと、どういう状況だコレ?」  自分はその滝が作ったであろう円形状の湖の中に座っているようだった。湖といっても四方が崖に囲まれた窪地のような場所らしく、直径五十メートルくらいの大きな水瓶といった感じだ。  底が浅いのか上半身を起こしても鳩尾みぞおちまでしか水嵩みずかさが届いていない。水は地下にでも流れているのか川へと繋がる場所もないようだ。とはいえ先程まで水の中に浮かんでいたようなので、全身は水浸しである。  とりあえず水から出ようと体に張り付いた藻や木の葉を払いながら立ち上がると、背後から風に乗って妙に甘い香りが漂ってきた。 「 ———— ?」  不思議に思い振り返ると、背後の崖の下は小さな岩場になっており、そこから崖上へと続く細い坂道があるようだった。 「……何だろう、この匂い。花ってよりは薬っぽい香りだな。工場でも近くにあるのか?」  恐らく風があの坂道の向こうからこの香りを運んできたのだろう。そういえばこの滝への出入り口になりそうな場所はあそこしかない。覚えてはいないが、多分自分もあそこから湖に入ってきた可能性が高い。まあ酔っ払って川に落ちて、滝上から流されてきた可能性も若干残ってはいるが。とはいえ ———— 「……見覚えない場所だよな。こんな絵本の中みたいな綺麗な場所、家の近所にあったかな。記憶がないってことは酔っ払ってたということで間違いないんだろうけど、飲む前の記憶まで思い出せないってのは……どういうことだ?」  額に手を当てて考えてみるが、この状況になった理由が思い出せない。自分の名前や年齢はぐらいは覚えているが、思い出すのは結構古い記憶ばかりで、最近のことがどうもあやふやだ。  自分の名前は石破徹いしばとおるで間違いない。もうすぐ三十代半ばとなるフリーターであり、しがないアパート暮らしである。  確か東京で音楽をやるため上京した後、夢破れて生まれ育った養護施設のある山梨県へと戻ってきたはずだ。その後……えーっと、市役所でアルバイトをしながら悠々自適に一人暮らしていた……かな? 多分。  でもそれがどうしたことか、現在は美しいの大自然の中、全裸で突っ立っている。そう。よく見ると俺は全裸である。そこもよく分からない。 「……何だろう。森の中で開放的に暮らしたかったとか、そういう事なのか?」  呟いてみるが答えはない。まさか酔っ払って喧嘩して、身ぐるみ剥がされた上に川に捨てられたのだろうか。もしそうなら財布だけは返してもらいたいものだが。  とりあえず確認のため再度滝の方を見ると、数メートル先に小さな丸い陸地があることに気づいた。土砂などの堆積物による小島だろう、直径三メートルくらいの円形になっており、真ん中には古ぼけたカバンと地面に突き刺さった剣が存在していた。 「…………は、剣?」  何だか有り得ない物が見えている気がする。映画やゲームでしか見たことのない時代錯誤で物騒な代物だ。  ジャブジャブと水を蹴るように進み小島に上がると、剣とカバンの他にも鞘の付いたベルトなんかも置いてあった。そしてその荷物の向こう側には —— ———— ちょっ、本物かよっ!」  真っ白な白骨死体があった。  他にも地面には破けた布切れや骨が散らばっており、周辺の土や植物が何か黒いもので染まっている。人骨なんて初めて見たが偽物には見えない。  近寄ってみると服だったであろう布切れが意外と新しい気がした。もしかしたら、まだ死んでからそれ程長い時間は経っていないのかもしれない。 「……まだ道具とかは新しそうだけど、こんなに湿度の高そうな滝の真ん前で直ぐに白骨化なんてするもんなのか? 剣も見た感じ錆びてないし」  やや疑問も残るが手を合わせて黙祷する。自分は特に宗教とかに入っているわけではないのでこういった場合の儀礼には疎いのだが、お化けが怖いのでしっかりと祈っておくことにする。  祈り終えて立ち上がると、仏さんの持ち物であろう赤茶色の肩掛けカバンが目に入った。 「……まあ、身元確認くらいした方がいいよな」  言い訳するように呟いてみる。  カバンを手に取ってみると、革製でズッシリしたとても頑丈そうな一品だった。落書きや傷跡などはあったが、特に壊れた箇所も見られない。  留め具を外しカバンを開けると、中には全部で三つの遺品が入っていた。  一つ目は銀色のペンライトの様な物だった。金属製の万年筆といった感じで、触ってみるが何だかよく分からない。もしかしたら彼はアイドルのコンサートの帰りに殺されたのかもしれない。とりあえず何かの証拠品になるかもしれないのでカバンに戻しておく。  二つ目は何やら赤い液体の入った瓶だ。細長い六角形のガラス瓶にコルクの栓がされていて結構お洒落な作りになっている。お高いんじゃないだろうか。  酒かもしれないとコルクを開け匂いを嗅いでみると、少しアルコールっぽい匂いがする。いきなり舐める度胸は沸いてこなかったが、夜になったらちょっと試した方が良いかもしれない。少し辺りをキョロキョロ見渡した後、カバンに戻しておく。  最後の品は、銀色のタブレットサイズのカードだ。なにやら身元確認できそうな品である。だがこれを見た時、思わぬ衝撃を受けた。カードの左上には太陽の中に一本の剣が逆さになった十字架のようなマークが掘られており、その隣には小さく笑顔のおっさんの写真が張り付いている。いや、それは別にいい。問題はその周りに書いてある文字群だ。 「………全く読めねぇ」  長く日本に住んできたが、こんな文字を使っている地域は記憶にない。形状が近いのは古代神代文字とか北欧の古いケルト文字とかだろうか。隙間のない記号の様な文字。凄く読み難そうだ。  俺はとりあえず見なかったことにして、カードをカバンに戻した。 「……ふう。参ったな、何も分からなかったぞ」  出来れば、衣類くらいは入っていて欲しかった。身元確認とも現状確認とも全く関係ないがちょっと期待していたのだ。全裸のままじゃ遺品を交番に届けた瞬間捕まりそうだし。 「いや、問題はそれよりも ———— 」  胸中に漠然とした不安が広がっていく。薄々感じていた違和感が無視できないくらいに大きくなってきたからだ。  見たことない植生の雄大な景色。  時代錯誤な突き立った剣。  そして文法意識の低そうな見たこともない文字。これで疑わない奴はどうかしてると思う。 「ここって本当に地球なのか? 外国に現代でも剣使って戦ってる場所なんてあったかな……」  直ぐには思いつかない。現代にだって剣を使っているところくらい探せばあるだろう。恐らく儀式なり戦場なり特別な場所で。だがこのカバンや使い込まれたベルトには生活感とでも言うようなものがあった。まるで長年日常的に使用されていたかのようなシミや落書き、補修跡。 「………まあいいか。夜があるなら星も出るだろうし、天文学者じゃなくても夜空が見たことない星座だらけなら分かるはず。今は周辺確認が先だ。まだ明るいうちに動かないと」  声に出しながら頭の中を整理していると、ふと大事なことに気がついた。ここが山の中なら野生動物だっているかもしれないのだ。日が暮れる前に人なり町なり探さなきゃまずいかもしれない。  俺は立ち上がって遺体に手を合わせ、「少しの間、道具を使わせて頂きます」と断わりを入れた。  とりあえず落ちている鞘付きベルトを手に取り腰に巻いていく。装着すると、全裸にいきなりベルトをした変態が出来上がった。ふむ、これではまずい。どうしたものか。  周囲を見渡すと近くの水面に沢山の藻が浮いている。俺はしばらく考えた後、藻を集めてベルトに巻き付けてみることにした。  体感で十五分 ———— 立派な腰蓑が出来上がった。 「よし、これなら人に遭遇してもダッシュで逃げられることはないはずだ。  後は…………やっぱ、これも持っていかなきゃだよな」  剣を地面から引き抜く。あまり触りたくはないが、鞘もあることだし持っていく以外の選択はない。  引き抜いてみるとその剣は思ったよりも軽かった。長さは腕よりやや短いくらいで両刃になっている。刀身は銀色に輝いており剣先は丸まっていて錆びている感じもしない。何の金属かは分からないが加工技術は高そうな気がする。まだ十分使えそうだ。 「よし、準備は整った。後は湖を出て ———— 」  ゴッ、ゴッ、ゴッ。  キュルルッ。  その時、何故か背後で奇妙な音がした。  その音はまるで、岩場を重量のあるものが移動した様な音であり、続いて聞こえたのは鳥のような鳴き声。  背中が強張り、感じたこともないような悪寒が体中を駆け巡る。  ゆっくりと振り返るとそこには ———— 得体のしれない生物が、二十メートルほど先にある岩場の上に突っ立っていた。 「…………えっ、あっ、ちょ……」  高さは三メートルくらいはあるだろうか。百七十八センチの俺の身長から考えても、多分それぐらいはある筈だ。ゴツゴツした割に滑らかな肌に、ワニの親戚のような凶悪な口。太く鋼のような足に、鳥を思わせる鋭い双眸。そして全身から生えている汚れた緑の羽毛は、目の前の光景が現実であることを如実に物語っていた。 「ま、まさか、いるわけねぇよなっ! どんだけ昔に滅びたって話だよっ………!」  鳥の親戚に見えるが、明らかに鳥ではない。一目見ればそれが大型の爬虫類の仲間であることが分かる。  そういえば、恐竜って羽の様な体毛が生えているって話があったけど、だとすればアレは ——  そこまで考えた次の瞬間。その大型爬虫類はいきなりこちらに向かって飛び出した。  「ギュアアアアッ!」  水、苔、岩がそいつの勢いで弾け飛ぶ。  大質量の物体が唸り声を上げながら、自分の方へと突進してくる。  俺は「うぉああああっ!」などと叫び声を上げつつも、膝が力を無くしたように動かない。  辛うじて剣を両手で前に押し出したが、それ以上は何もできず正面から激突した。 「——うっがぁああああっ!」  変な声を上げながら滝へと吹き飛ばされると、背中に強い衝撃が走った。そのままバシャアアンッと水面に落ちるが、痛みと突然の水中で呼吸すらままならない。  全身が、特に肩の関節と背中が軋む。水中なのにアドレナリンのせいか体が燃えるように熱い。だがここで痛がっていては、間違いなく殺されてしまうことだろう。  俺は歯を食いしばり慌てて水中から顔を出す。そして何とか震える腕で剣を掲げ、剣先を大型爬虫類へと向けた。  それが良かったのかどうかは分からない。だが奴は追撃を仕掛けてこようとせず、何故か首をコキコキ動かしながらこちらをうかがうような姿勢で眺めていた。 「ゲホ、ゲホッ!  —— くそっ、自分の子供とキャッチボールしてみたかったぜっ!」  微妙に人生を諦めつつ、しばらく待ってみるが奴はこちらへ動き出そうともしない。ウロウロしながらもこちらを窺っているだけだ。 「……なんだ?」  何かおかしい。何故奴は仕掛けてこないのだろう。  水が嫌いとも思えない。正直な話、こちらはすでに掲げた剣すら満足に振るうことができない状態だ。見るからに弱っている獲物を前にして、アレが勢いを止める理由が思い当たらない。  そこまで考えて、俺はふと自分のいる場所が滝壺である事に気が付いた。水流の少ない滝とはいえ、やはり滝壺は少し深くなっている。かがんだ状態でも、水面は胸の辺りまで届いている。 「 ———— これが理由か?」  奴は滝壺に入ってしまうと、体のほとんどが水の中に浸かることとなり、移動力が減衰すしてしまう。何より足が制限を受ければ無防備となる自分の首を満足に守る事もできないことになる。それが分かっているのかもしれない。……まぁ、鳥っぽいので単にキラキラ光る剣が嫌な可能性もあるが。  ウロウロと動く大型爬虫類は、やがて俺のいた小島へと上がった。  何をする気か観察していると、奴は何故か人骨の匂いを嗅ぎ始めた。  一瞬、小島を足場に飛び込んでくるかと身構えたが、まるでこちらを忘れた様に骨の匂いを嗅いでいる。その姿を見て俺は先程の疑問の答えを得た気がした。 「まさか、てめぇがその人を喰ったのかっ………!」  体の骨がばら撒かれていた事といい、綺麗に白骨化していた事といい、何かが死体を食べていた可能性が高い。  剣とカバンが綺麗に置かれていたことを考えれば、被害者は死んだ後食べられたのかもしれない。そういえばティラノサウルスは死体を漁っていたなんて予想もあるくらいだ。強固な消化器官を持った恐竜がいるのかもしれない。  呼吸を整えつつ、剣を目の前に掲げ警戒する。  恐竜モドキは地面に食べ残しがないことを確認すると、こちらを一瞥した後、直ぐに湖から出て行った。  あの巨体を維持するには、ある程度の食糧を喰い続ける必要があるのかもしれない。意外なほどあっけなく謎の恐竜モドキは我が肉体を諦めてくれたようだ。  奴がいなくなった後、俺は盛大に溜息を付きながら小島へと戻り、岩に腰かけた。 「……ははっ、やべーな。確実に日本じゃねーよ、ここ。つーか完全にUMAユーマじゃん。あんなの、どうしろっての……」  笑いながらも、声がどんどん尻すぼみになっていく。  これは無理だ。どうしようもない。アフリカの草原地帯サバンナにゼブラ柄の服で放置された気分である。  これからどうすればいいのだろう。あんな化け物がいるんじゃ迂闊にここから外に出ても死ぬだけだ。夜を待ったとしても、夜行性の爬虫類だって普通にいるだろう。蛇とか毒を持った生物だっている筈だ。状況的に詰んでいる気がする。  近くに落ちている頭骨が目に映る。この状況では明日は我が身かもしれない。幸いまだ太陽は高い位置にある。ここが安全でない以上何としてもここから抜け出して人里に行かねば、最悪夜寝てる内に神の身元に召されることだろう。  俺はさっきの恐竜モドキが近くでウロウロしている事を警戒し、一時間ほど待った後、遺品の入ったカバンを肩に掛け唯一の出入り口へと足を向けた。

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